豪勢なランチと胸がときめくデモンストレーションが、みなさんを待っていると思います。
I はすばらしい仕事をしています。
時間さえたっぷりあれば、きっと立派なアプリケーションを開発するでしょう。
しかし、I のプレゼンテーションを聞いている間、ひとつだけ、忘れないでいただきたいことがあります。
それは、犬と猫は違うということです「いま、ステートファームの家にはネズミがいますそれで、わたしたちは猫を設計したのです。
ぼくは試作機を指さした。
これは、みなさんのご要望にぴったり合うように作られています。
まさに、仕事に必要なツルなのです。
しかしIは、売りたいと思う犬を出してくるでしょう。
ここで、忍び笑いが起こった「I劇場では、第一幕に、猫によく似た犬が出てきます。
毛を剃られ、猫の毛皮を着せられ、顔にヒゲを植え込まれた犬です。
第二幕では、猫のように振る舞うよう訓練された犬が出てきます。
それは、キヤツトフードを食べ、ニャオと鳴くのです。
第三幕では、猫を持ち運ぶ篭にぴったり収まる犬が出てきます。
耳と尻尾を切られ、脚を切断され、篭からはみ出さない犬です。
よくは走れませんが、篭には入るのです。
そして、弁舌巧みな人が、ネズミを追いかける犬のブリデイング計画を説明するのです」ここで、笑い声が大きくなった。
「I が売りたいのは犬であり、みなさんが買いたいのは猫なのですくれぐれも、そのことをお忘れにならないでください。
ぼくがみなさんにお願いしたいのは、それだけですばらしかった。
実にすばらしかったよ」Rが言うのだ。
喜んでいいのだろう。
ぼくらは互いに尊敬し合っているが、ふだん、それは口に出さない「ありがとうきみもすばらしかった。
」週明けの月曜日、Nビンセントから電話があった。
「それで、Iのプレゼンテーションはどうでした。
?」「よかった。
しかし、わたしたちがなぜ、始終くすくす笑っているのか、理解できなかったでしょうね。
犬の話は忘れられません「気にしないでください「いえ、全然あなたのプレゼンテーションはすばらしかった。
おっしゃりたいことが、ほんとうによくわかりました。
」「ありがとうございます。
そう言っていただけると、ほっとします」「これをどう受け取ってもらえるか、わからないのですがここで、不吉な間があった。
ぼくは覚悟した。
なんだかんだ言っても、やはりIやPには勝てないのか 「うちの大口取引先の一社に協力していただきたいのですが、いかがでしょう」意表をつかれた一瞬、何を言われているのか、わからなかった。
「それは、ぼくがGO を辞めて、その取引先に移るということですか」「いいえあのプロジェクトで、手を組んでもらいたいのです。
もちろん、そちらに異存がなければの話ですが」これ以上の話があるだろうか。
異存なんであるはずがないGO と組んだ大手は、ペンコンピューターをGO から買うことになるので、競争相手ではなくなるステートファームのほうは、大手コンピューター会社との提携にドアを聞いておける顧客の中にステートファームのような大企業があれば、さまざまな面でパートナーの支援を受けやすくなる。
ほかの顧客に接近するとき、製品を作るとき、アプリケーションの開発を促進するとき、そして何よりも、資金を調達するときに、大きな力になるぼくはすっかり舞い上がってしまった。
しかし、もうひとつ、聞いておくことがあった。
「喜んでそうします。
しかし、その取引先というのは、具体的にどの会社をお考えですか」「それは、そちらさんにおまかせします」こんなにうまい話がこの世にあっていいものかこっちで相手を選んでいいというのかダンスパーティーの日、ロールスロイスを使ってもいいと言われた高校生のような気持ちだった。
しかも、町一番の可愛い子ちやんだろうが何だろうが、エスコートする相手はよりどりみどりだというのだ。
「I でも、Pでも、どちらでもいいという意味ですか」己ろえ、そうです」これでもう、ロールスロイスの運転席にどっかと腰をおろしたようなものだ。
あわてる必要は何もない気分を楽にして、ドライブを楽しめばいいのだ。
「先方と話をする時間がほしいのですが「もちろんです。
向こうから電話が入ると思います。
二社から電話が入るでしょう」次の目、会社に着くと、Iと Pのかなり地位が高い販売担当者から、メッセージが届いていたさて、どっちと踊ったほうがいいのだろう。
社員のあいだには、自分たちは強く、公正で、エリートだという信念が浸透している。
しかし、ときには大義のために、疑問を抱くようなことも遂行するよう期待される。
民主主義を守るために、国家元首暗殺の命令を受ける。
IA の工作員のようにIは社内神話をつくる傾向があり、そうした神話が秩序感覚を守っている。
急成長している成り上がり企業に競争で負けるとしたら、それは相手が不公正なことをやっているからだと考える。
相手のほうがすぐれた製品をもっていれば、それはまだ信頼できない技術だと難癖をつけ、それから顧客を守るのが使命だと考えるI の社員は、海兵隊員のように、目の間にあるものには、何にでも立ち向かうよう教育されているIには「ゃるか形むか という文化があり、自分たちの時折の失敗に対処するときに、屈辱的な敗北を認めずに、全部門がなにごともなかったかのように仕事を続ける場合がある。
製品は完壁だし、顧客は満足しているし、社員の努力が業績にあらわれている。
実際にはそうなっていなくても、そうなっていると思い込む戦闘はまだ戦果はあがっている会社の上層部は、そう宣言するだけだ。
ベトナム戦争の末期によく聞かされたセリフであるMの〈ウインドウズ〉に対抗するために発売された。
このオペレーティングシステムの開発には、十億ドルをはるかに超える資金が投入された。
回収のメドがまったく立たないまま、その投資はいまも続けられている瀕死のプロジェクトに活を入れる資金が豊富にあるうちは、別に問題はない。
しかし、一九八九年も中頃になると、歩く屍の負担があまりに重くなり、市場を独占し、高い利益率をあげていたメインフレム事業だけでは、もはや会社全体を支えることはできなくなった。
問題は、誰もそのことに気づいていないことだった。
Nビンセントの電話から数時間以内に、IとP (ヒューレットパッカード) の双方から接触があった。
協力について話し合うため、ぼくたちのつつましい会社を訪問する手はずを整えるのが目的だった。
十人余りが来訪し、ぼくたちの会議室は超満員になってしまったJはステートファームを担当する販売スタッフのトップで、GOと手を組むことをステートファームが真剣に望んでいることを知っていたそして、それを自分の会社にわかってもらうことが、いちばん難しい仕事であることも知っていた案件はM にまで上がっている」Jは開口一番そう言った。
M というのは、I の最高意思決定機関、マネジングコミティ(経営会議) のことで、四人の経営トップが定期的に集まり、会社が直面しているもっとも重要な問題を話し合う場である。
規模がとてつもなく大きく、オフィスがそこらじゅうに散らばっていることを考えると、この会議は国連のようなものであるおもに何をやるかといえば、さまざまな部署からやって来ており、協力しあう意思がまったくないことが、すぐにわかった。
有名なTJ研究所で、何年も前から手書き文字認識に取り組んでいる研究者の顔も見えた。
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